人々は、小さな嘘より大きな嘘に騙されやすい。中村文則「R帝国」

先日のアメトークで東野さんや又吉さんが、今年のお気に入りの本として紹介していた「R帝国」を読みました。kindleではなく、本屋で買いました。装丁が綺麗でよかったです。
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 近未来の戦時中の話で、あまり好みの設定ではないのですが、中村文則さんが書いているということと、又吉さんが紹介していたので手に取りました。いやーよかった。なかなか分厚い本ですが、世界観に引き込まれてしまいあっという間に読み終わってしまいました。

 

R帝国

印象に残ったセリフ

性を売り物にしている女性が、自分のことを「汚れている」と言った後に栗原が言ったセリフがこちら。ちょっと長いけど引用。中村文則節が炸裂しています。

「男性に何されたって、女性は汚れることなんてないよ。……それに、人間の身体は一年もすれば、構成する原子は全て入れ替わっているからね。全く別の身体になる。……何か彼らに弱みを?でも映像に撮られたりしても、そこに映っているのは女性そのものじゃなくて、データ信号を元にその映像機器が再現しているだけだから。……原理的には、ただの精巧な絵に過ぎない。誰も本当にきみの姿を見ているわけじゃない」

こんな返しはできないですよね。映像機器の話はどこかで使ってみよっかな。

こちらは老人がAIと会話しているときのセリフ。

わしら人間がこうしよう、と思ったその0.何秒か前には、もうすでにその脳の部位が反応していると。……我々の意識は、自分でこうしようとか、自分で考えているつもりだが、実は脳の反応を遅れてなぞっているだけだと。……我々は脳に、自分で決めていると思い込まされている。脳が脳を騙している 

これってどこまで科学的に証明されてるのかな。すごく興味深い。

脳科学に詳しい人いたら教えてください。

 

選択をしなくなった消費者 

最近って何か買いたいときは、とりあえず検索しておすすめされているのを買ったりしますよね。失敗しないように誰かに決めてもらうことが多くなってます。

自分の選択を、HPに決めてもらう所有者が増えているという。HPは統計的に様々な状況を計算し、人間より正しい判断を下せるとされる。そうなると、人間の人生は一本のレールとなる。その人間の能力の範囲内で、取り得るべき最高の道を選び続けるということ。全ての人間の人生がそうなった時、この世界はどのようなものになるのだろう。

※HPとは人工知能を搭載した携帯電話のことです。

最高の人生にはならないだろうなと思いました。最高の決断とは、自分で考えて決めた道がうまくいったことが嬉しいのであって、最初からベストの選択肢を与えられても面白くありません。

攻略本通りにゼルダの伝説をやってもつまらないのと一緒です。

 

 挿話が面白い

かなり長くなってしまうので引用しませんが、挿話が面白いです。小説として、「沖縄戦」や「9.11」があります。教科書に書かれている事実の羅列ではなく、もっと大きな流れについて書いてあります。歴史の見方が変わります。

沖縄戦に関わる描写は、中村さんの現地取材に基づいているそうです。

 

大きな嘘に騙されやすい

「人々は、小さな嘘より大きな嘘に騙されやすい。」というアドルフ・ヒトラーの言葉の引用から始まる本書。まさにこの本のテーマを表しています。

ぜひ、読んで見てください。