御巣鷹山での航空機墜落事故を描いた「沈まぬ太陽」(ネタバレ・おすすめ)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

「沈まぬ太陽」は、実際にあった日本航空123便墜落事故をフィクションとして描いた全5巻の大作です。

なんと5年に及ぶ取材を元に書かれています。

日本航空123便墜落事故とは、ボーイング社の整備不良によって圧力隔壁が破損したことが原因とされているもので、520名もの命を奪いました。

この恐ろしい事故の真相はなんだったのか。事件なのか、事故なのか。


僕はわりと規模の大きい(古い体制の)会社で働いています。同期が100人くらいいるみたいですが、全然把握してません。

こういった会社にいると、本当に自分は歯車の1部に過ぎないんだと実感します。


数ヶ月前に、同じ部屋にいた同僚が心不全で亡くなりました。

仕事上の接点が無く、ほとんど会話をしたことが無かった彼の席は、ある日を境に突然空席になりました。

みんな動揺はしていたのかもしれませんが、表面上はルーティンの仕事を黙々とこなしていきます。

彼の仕事は残ったメンバーに振り分けられました。

歯車が1つ欠けても、滞りなく回り続ける「組織」に、ある種の感度と恐怖を覚えた瞬間でした。


「沈まぬ太陽」に登場する航空会社NALは、組織として腐りきっています。

経営方針は安全性よりもコスト重視。

かと思えば数百万円のお金が水面下で動くこともザラではありません。

「まじめ」に働くよりも、政治家とパイプを作ったり「上手く立ち回る」ことが出世とお金に繋がります。

どれだけ腐っているかの詳細は本書に譲るとして、NALは航空機事故で最大の死者数を誇る事故を起こしてしまいます。


その組織に立ち向かっていたのが、人一倍正義感の強い恩地です。

労働組合を率いた恩地は、職員の労働環境と待遇改善のために、物怖じせず会社と交渉します。

実際に、恩地のお陰で待遇は少しずつ改善されていきました。

ところが恩地は突然海外赴任を言い渡され、島流しと言えるような外国を10年も周ることになってしまいます。

その後、本社に帰ってくるものの部下がいない名前だけの部長というポジション。

これが組織に立ち向かった人の顛末です。


本書では対照的に行天という人物も描かれます。

彼も初めは恩地とともに、組合副委員長として現場で働く職員のために尽力します。

ところが彼は、途中から会社側の悪魔のささやきにそそのかされて、「上手く立ち回る」ようになってしまいます。

その後、ニューヨーク支社に栄転、常務まで出世コースを歩むなど、恩地とは異なり華やかな道を歩みます。


事故後、外部から来た会長が腐った組織を治療するため、あの手この手と手を尽くします。

これまでの会長と異なり本当に顧客や社員のこおを考える会長で、恩地には会長室部長のポストを与えます。

それでも組織はすでに末期症状でした。

利権を貪ってる社長、社員、政治家たちの手により、会長は辞任してしまいます。


組織を変えるには、個人の力では到底及ばないことをつくづくと感じました。

組織を作っているのは個人ですが、組織が一度動き始めてしまうと、それはもう個人の力の及ばないところとなってしまうのかもしれません。


日の丸マークのNALが沈むことはありませんでした。

 

フィクションという形式をとったからこそ、ある航空会社の腐敗と事件の裏側について書けたのでしょう。

「結局事件の真相が分からない」という評価をしている人がいましたが、真相とはまさに本書で書かれた曖昧なバランスのことではないかと思いました。

おすすめです。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)